下町和菓子栗丸堂4巻のお知らせ

 9月も下旬に至り、明日は中秋の名月。暦の上では秋なのに依然として蒸し暑い日が続く東京で、今年の夏はどこにも行けなかったなと去年と同じことを考えている似鳥航一です。

 でもまあ状況が状況でしたから仕方ない。4度目の緊急事態宣言も結局、今月末まで延長になりましたし…。

 ただ、それが功を奏したのかどうかはともかく、最近の新型コロナウイルス新規感染者が目に見えて減少傾向なのは紛れもない事実。やっぱりその逆よりは望ましい。ワクチンを2回接種した方も人口の五割を超えたらしく、油断はできませんが決して悲観しすぎることもないでしょう。このまま難局をやり過ごし、いい落としどころを見つけたいところ。


 しかし今年は宣言が出ている日数が現状211日間で、まん延防止等重点措置も含めると普通の日の方が圧倒的に少なかった。この先も年末年始の帰省などで感染増加が予想されるため、12月のクリスマスの後くらいに政府がもう一度宣言を発令するような気がしています。

 というのも感染した場合は潜伏期間が1~14日(平均で5~6日)だから、正月休みの少し前に発令しておかないと間に合わないんですよね。民間の普通の病院は年末年始は休みですし、そのタイミングで病人はなるべく出さない方がいいでしょう。いわゆる曲突徙薪といいますか――煙突を曲げ、たきぎをよそへ移して火事を防ぐ――トラブルがそもそも起きないように事前に布石を打っておくのが理想のトラブル管理法、なんてよく言われたりしますけど、発令したら発令したで経済至上主義の人に叩かれそうだから、やるとなったら気苦労は多そう。

 誰からも文句の出ない正答がありえない世界で批判されることがわかっていつつ、それでも何かをしなければならない立場の方は今は受難の時期でしょうね。


平安京の和菓子の検非違使

 今月の9月22日に「いらっしゃいませ 下町和菓子栗丸堂」の4巻が刊行されます。

 物語も終盤に差し掛かっているので未消化の出来事を一つ一つ進展させているところ。また、この巻ではちょっと愉快な人物も登場します。

 そして栗田と葵にも驚きの進展が…。お楽しみに!


 ●KADOKAWAのサイト

 https://www.kadokawa.co.jp/product/322105000046/


 ●メディアワークス文庫のサイト

 https://mwbunko.com/product/kurimarudo/322105000046.html


 ●イラストレーター・わみずさんのサイト

 http://www.a-mocco.com/wamizu.html


京では左右が逆になる

 今回の栗丸堂、「平安京の~」というサブタイトルの通り、途中で栗田たちが京都へ向かいます。

 僕は今でこそ東京在住ですが、以前は京都に住んでいたんですよ。その前は別な場所に、その前もまた違うところに住んでいた迷子の旅人です。いつか全てを断捨離して未知の深山幽谷に旅立ちたいと思っている――と、そんな雑な自分語りはさておき、京都に住んだ経験のない人からよく質問されるのが、「京都の人ってネットでは意地悪みたいに言われがちだけど、本当?」というもの。

 意地悪かどうかは受け取る側の主観によるので、他者の意見はあまり参考にならないと思います。個人が個人から受けた印象を集団に敷衍する行為にも、何の意味があるのかいまいちよくわかりませんし。

 ただ、僕個人の意見としては別に意地悪ではなく、むしろ京都の人は親切だと思っています。

 上品で優しい性格の人が多いですよ。

 例えばあなたがプログラムのコードを書き、何かの拍子に初歩的な恥ずかしいミスをしたとしても、きっと彼らは褒めてくれます。「凄いねぇ。普通そんなバグ出せへん。きみ何でもできんねや。『天才』やなぁ」みたいに。

 色々と思うところはあるかもしれませんが、怒鳴ったり、居丈高にミスを糾弾されるよりはずっといいはず。そしてもう二度と凡ミスはすまいと心に深く刻み込まれるでしょう。これが都(みやこ)の雅なやり方です。


 実際の話、京都は日本屈指の観光地だから外から来た人に対しては大概、好意的なんですよね。色々とわかっている大人な方が多いです。不快な思いをさせられたことは僕の経験上ほとんどありません。「ぶぶ漬け食べて帰りなはれ」みたいなのは面白おかしく誇張された古の都市伝説かと。

 あ、ぶぶ漬けというのはお茶漬けのことで、漬物ではないので念のため。(ぶぶは湯やお茶の意味だそうです)


 漬物で思い出しましたが、京都は漬物の本場でもあって。

 しば漬け、千枚漬け、すぐき漬け――これらが京の三大漬物と言われている。駅近の土産物店などではわりとお高い値段で売ってますが、地元の人が行く店だともっと安く買えます。

 ついでに都から少し南に行くと存在感を増してくるのが奈良県の奈良漬け。見た目は沢庵に少し似ているけれど違うんだ(酒粕を使っています)。奈良漬けはクリームチーズとよく合うらしく、一部で熱い注目を浴びている。ちなみに東京名物の漬物はべったら漬けらしいが、まだ食べたことありません…。


 漬物って普段あまり食べる機会ないですけど、僕は結構好きで――とくに母方の祖母が自分で漬けた茄子の浅漬けがとても美味しく、夏休みに遊びに行くのが毎年楽しみだった。お茶漬けと一緒に食べると、緑茶と漬物の風味が複雑に混ざり合ってなんとも言えない美味しさなんですよ。それはそれは、なんてませた味覚の子供なんだと思われそうですが、普通にカレーやハンバーグも好きだったのでご安心を。ともかく、おばあちゃんが漬けたものより美味しい漬物を僕は今まで食べたことがない。


 栄養がほとんどない、あるいは塩分過多で体に悪いとも言われることがある漬物。でも実際には発酵させて作るものも多いから、腸内フローラ(花畑のような多様な腸内細菌の状態)にはそれなりに好影響があるはず。とくに京都のしば漬けやすぐき漬けは、いずれも乳酸菌を使用した発酵食品なので、きっと体にも良いのでは。僕はその説を推してます。

 腸内環境はメンタルに影響を与える(ストレスを感じるとお腹が痛くなる現象の逆)なんてよく言われますし――いわゆる腸脳相関――昔の人の知恵と生活習慣は侮れないもの。秋の夜長、暇を持て余したら日本茶と漬物でも頂きつつ、古代の人々の叡智に思いを馳せるのも一興かと…。


 ちなみに「発酵」と「腐敗」は生化学的には効果は同じで、人間に有益なものを発酵、有害なものを腐敗と分類している。言ってみれば益虫と害虫みたいなものです。ナウシカの巨神兵も腐敗させればぐずぐずに溶けて暴れ、発酵させると調停者オーマになります。完全体がとても格好いい。

にとりの愉快な小部屋  -似鳥航一ブログ-

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